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    J・Hair News Vol.37 / J・Hair’s EYE
がん患者の外見ケアー医療者側からウイッグについて考えることー

1. はじめに

がん治療の副作用には様々な症状がありますが、特に外見に関わる症状としてよく知られているのが頭髪の脱毛です。頭髪の脱毛は化学療法や頭頸部の放射線治療に伴いますが、使われる薬剤や放射線の量によって異なり、全てのがん患者さんに同じように起こるわけではありません。2009年に国立がん研究センター中央病院が化学療法中の患者さんに行った調査によると、乳がんの患者さんでは96%が脱毛を報告しているのに対し、肝臓がんの患者さんでは39%しか脱毛の報告がありませんでした。また、脱毛の仕方も治療により様々で、短期間に全ての頭髪が抜けてしまうような劇的な変化もあれば、薬が続いている間パラパラ抜け薄毛が続くという場合もあります。最近では、脱毛ではなく縮毛化や脱色などの副作用を起こす薬剤も使用されるようになってきました。

以前は、命を助ける治療が最優先され、脱毛のような外見に起こる副作用はあまり重要視されてきませんでした。しかし最近は、ロングサバイバーが増加したことや、仕事や通学をしながら通院治療する患者が増えたことから、周りから見える外見の変化についても重要視されるようになってきています。先に述べた調査によると、抗がん剤治療の副作用による苦痛度ランキングTOP20の中に外見変化に関わる症状が、男性で10項目、女性で11項目含まれており、特に頭髪の脱毛は女性の場合第1位となっています。

2.国立がん研究センター中央病院アピアランス支援センターの活動

 治療により外見が変化した患者さんを支援するために、国立がん研究センター中央病院では2013年にアピアランス支援センターを設立しました。アピアランスとは「外見」を意味する言葉です。センターでは、医師・薬剤師・看護師・臨床心理士・美容専門職といった多職種が連携し、患者さんをサポートしています。中央病院1階に設置されたセンター内には、約60個のウイッグの他、帽子やつけ毛、スキンケアやメイクアップ、ネイルケア、マニキュアなどの美容関連製品に加え、人工乳房や義足、欠損した部分をカバーするエピテーゼなどが展示されており、患者さんは自由に製品を試したり、相談したりできるようになっています。

センターでは、個別相談だけではなく、脱毛や肌、爪への影響と対処方法をレクチャーするグループプログラムも週に2回行っています。看護師や心理士が担当しているのですが、「楽しく」「明るい」雰囲気での実施を心がけており、笑いの多い会となっています。これは、外見の変化を「深刻で」「悲劇的」な「対処困難」な問題ではなく、自分でコントロールできる「対処可能な」問題と捉えてもらうようにするため、私たちが行っている仕掛けの一つです。意外に思われるかもしれませんが、涙する人がいたとしても基本的にその雰囲気を変えることはありません。ほとんどの場合、涙した人も周りの雰囲気の中で自分の気持ちを整理し、またプログラムに気持ちを戻してくれます。どうしても気持ちの整理がつかない方の場合は、外見の変化は感情が揺さぶられるきっかけに過ぎず、別の問題や気がかりを抱えていることが多いので、個別相談にお誘いしたり、関連部門へ連携したりするようにしています。

プログラムでは、毎回最後にウイッグの試着を行いますが、グループで試着をしていると、「似合わないわ」と不安になる患者さんに、別の患者さんが「大丈夫よ、よく似合っているわよ」などと声をかける様子もよく見かけます。他の患者さんの試着の様子を見て、ウイッグをかぶった姿に違和感がないことを確認し安心したという方も多く、お互いに声を掛けながら楽しそうにウイッグを試着されています。このように、患者さん同士が助け合い、声を掛け合うことで、自分に似合うウイッグを選べるだけでなく、病気と共に歩む勇気も得られることも、グループプログラムの効果の1つだと考えています。

3.患者さんに説明するウイッグ選びのポイント

センターには、ウイッグの選び方についての質問が頻繁に寄せられます。これに対し、私たちは「自分にあった価格・かぶり心地・スタイル」の3つの要素から製品を検討することを推奨しており、中でも最も大切な要素としてスタイルを挙げています。

スタイル

いかに高価で上質、あるいは「自然」であったとしても、似合うと思えないウイッグは、使用しなくなります。多くの患者さんは、初めは脱毛直前と同じスタイルを選ぼうとしますが、私はそれを勧めていません。患者さんの求める「以前と同じスタイル」とは、単に髪型だけではなく、後述する「自然なウイッグ」と同様の別の意味を含んでいると考えているからです。加えて、その「同じ」の中には、色・艶・毛量・ハリやコシ、弾力、滑らかさ、手触りなども含まれているため、自毛と全く同じものを選ぶのは難しく、同じものを選ぼうとすればするほど、微細な違いが気になってしまう結果になりがちです。ですから、時には患者さんに「今の髪型が人生で一番似合っています?」とあえて尋ねて、今と同じ髪型でなくても、自分らしく自信が持てる髪型があることを示唆するようにしています。そしてできるだけ様々な髪型を試していただくようにし、「治療によって髪型を変えなければならない」ことへの抵抗として「もとと同じ髪型にこだわる」ことから、「自分の意思で髪型を変えた」という思いを持ってもらうことで、ウイッグを選択する範囲を広げ、より自由にスタイルを選べるようになっていただいています。

かぶり心地

患者の好みもあり一概に正解のあるものではないので、できるだけ様々なメーカーの製品を試着して選ぶことを奨めています。スタイルが気にいっているのに装着感がなじまないというのであれば、インナーキャップの使い方などかぶり方の工夫を一緒に考えるようにしています。

価格

自分に負担のない価格、納得のできる価格で選ぶことが大切だと説明しています。実際、無理をして購入したウイッグは、装着感・スタイルなどもろもろ期待が大きくなりすぎ、結果満足できないということになりかねません。ちなみに2013年に行われた乳がん患者1500名を対象としたアンケートによると、10万円未満の製品を購入した人が約6割となっています。

4.患者さんの求める「自然な」ウイッグの意味を考える

ウイッグの相談の際には「自然なウイッグってどれですか?」「つむじが自然なのがいいんですよね」などと問われることがよくあります。ウイッグを取り扱う会社の方々は、普段の接客の中であまりにも当たり前になっていて、不思議に思わないかもしれませんが、今一度患者さんがなぜ自然なウイッグを求めるのか?を考えてみることも大切だと思います。

私たちが以前に行った研究によると、治療による脱毛は、@自分の姿が変わってしまうことによる「自分への違和感」や「自己像のゆらぎ」 だけでなく、A脱毛することで、周りの人たちと今まで通りの関係でいられなくなるのではないか?という不安ももたらすことがわかっています。Aは、脱毛を周囲に知られることで、自分ががんだとわかってしまい、「この人はがんになった可哀想な人だ」「もうすぐ死んでしまう人だ」「先々あてにならない」などと思われ、今までの対等な人間関係ではなくなるのではないかとの心配です。
がんの患者さんがウイッグで隠したいと思っているのは、単純に脱毛した頭ではなく、この脱毛に象徴される病気や死、あるいはそれがもたらす変化であることがポイントになります。患者さんが「自然な髪」を求める時には、単に髪型や髪質の問題ではなく、がんや死を感じなない自分らしい姿であり、また、周りの人との対等な関係が維持できる自分であること、つまり病気になる前の自分と同じようでありたいという思いがあります。

ところが、こうした思いを抱える患者さんに製品機能として「自然さ」(例えば、地肌が自然、つむじや分け目が自然・風合いが自然・人毛で自然など)を強く主張することは、「ウイッグは自然なものではないから、できるだけ自然に見えるものを選ばなければならない」というメッセージを発することでもあり、そのこと自体が「ウイッグを装着していること(=がんであること)は今までのあなたと違う」「ウイッグを装着していること(=がんであること)は隠さねばならない」「がんでも今までと同じ姿を装わなければ、今まで通りの人間関係を保てない」というメッセージを逆説的に発し、患者さんを脅かすことにもなります。

重要なことは「髪」というパーツが自然であることよりも、その人が気にいったウイッグをかぶることで、振る舞いが自分らしく自然になることにあります。そのためには脱毛にちゃんと対処しているという実感や、外見の変化を自分でコントロールできているという感覚を持つことが大切です。実際、そのような感覚を持てた人の方が、心理的well-beingが高いと指摘する研究もあります。

5.がんの患者さんに接する際に

がん治療に伴う脱毛は円形脱毛症などとは異なり、原因がはっきりしており、且つ、基本的に再発毛が見込めること、期間も予測できることから、適切な情報提供を行うことで比較的落ち着いて対処できる方が多いように感じています。ただし、がんの告知を受けたばかりの方や予想外の治療で戸惑われている方の場合は、がんという病へ否定や拒否、混乱が、脱毛やウイッグ選択の場に形を変えて現れることも多く、感情のコントロールが難しい方もいます。また、病に関わる他の気がかり(例えば、家族との関係や仕事のことなど)が、がんを象徴する脱毛やウイッグの問題に形を変えて表出されることもよくあります。

こうした場合の患者さんへの対応に万能な対応方法はなく、相手の言葉に耳を傾け、その人が何を求めているのかを丁寧に考えるしかないように思います。とはいえ、皆さんは、患者さんの問題の全てを引き受ける必要はありません。あくまでウイッグのプロとして髪の問題について応じることが大切です。そして、応じる際には、相手に伝わる言葉や表現を選ぶようにしてください。

また、自身や家族にがんの経験があったとしても、それを話す時にはよく考えていただきたいと思います。同じような体験でも治療や状況が違うことはよくありますし、治療方法の変化は早く、以前とは全く異なることも多いものです。置かれている状況やパーソナリティの違いから、同じ体験をしていても「同じ気持ちではない」ことも多々あります。お互いが傷つかないためにも、この点は留意してほしいと思います。

がんの患者さんを支える上で、ウイッグは大切なツールです。不安を抱える患者さんへの対応は困難が多いかと思いますが、患者さんが治療を継続しながらも、社会の中で自分らしく充実した生活を送るために、皆さんのご活躍があることを感謝しつつ、今後とも皆さんと協力しながら、患者さんを支えていきたいと思っています。

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