社員が治療をしながら働き続けるために、企業サイドからサポートを行うケースが増えつつあります。
産業カウンセラーの太田由紀子さんが最新の事例を取材しました。
第2回は、昨年「東京都がん対策推進計画(第一次改訂)」に基づく企業表彰において、特別部門で優良賞を受賞したキャンサー・ソリューションズ株式会社の取り組みを紹介します。同社は、「がん経験者を対象とした調査や企業へのコンサルティング」、「がん経験者のニーズや知見の情報発信」、「がん経験者の復職・就労支援」の3つを事業領域とする企業です。
お話をお聞きしたのはキャンサー・ソリューションズ社員で社会保険労務士、社会福祉士、産業カウンセラーの資格も持つ藤田久子さんです。
キャンサー・ソリューションズは、代表取締役社長の桜井なおみ氏をはじめ、社員9人(2016年8月現在)中7人はがんサバイバー。がん罹患(りかん)者の扱いに悩む企業が多い中、同社は「がんに罹患した経験を持つからこそできることがある」と、「がんと就労」にかかわることを事業の軸に、様々な分野で挑戦し続けています。
がんの治療中の社員も多いため、少ない人数でも仕事が回るようプロジェクトごとに仕事や時間を調整するワーク&シェアリング制度を実施。数人で情報を共有し、通院や治療日を調整できるように工夫しています。
社員同士で業務をシェアし調整するという働き方なので、疾病に限らず育児や生活の状況によっても柔軟に対応、在宅勤務も認めています。実際に、つい最近まで育児のために在宅勤務をしていた社員もいるそうです。がん罹患者が多い中、がん未経験者への配慮もあるところがこの会社の特長です。
がんと就労に関する、社会的にも意義のあるプロェクトをしなやかにこなす、まさに少数精鋭部隊。特別部門で優良賞を受賞した意味が分かるような気がしました。
では、藤田さんのがん罹患と治療後の復職事例を紹介しましょう。
社会保険労務士である藤田さんは、がん治療で入院中にほかの患者からの相談を受け、自分が知っていた高額療養費や傷病手当金の制度のことを患者に伝えていくことが支援になると考えました。
伝えたいという思いを形にするために、中外製薬と組み、病気になったときに必要な制度や仕組みが分かる資料作りをしています。中外製薬は今年の優良賞受賞企業です。がんと就労に関して意識の高い企業がタッグを組むことで、何かが生まれ形になる必然性を感じました。このほかにも製薬会社数社と、さまざまなプロジェクトを展開しているそうです。
「製薬会社は抗がん剤を作っても自分で試したりできない。副作用などが分からないから患者が見えなくなる。薬の向こうに患者がいることを、伝えていきたい」と、藤田さんは言います。
製薬会社のMR(医薬情報担当者)に対して、患者になったという想定での研修やワークショップを開催。副作用で手足がしぴれる感覚を体感するために、手袋をしたまま箸を持って食事をしてもらったそうです。
身をもって体験したMRが医療現場へ新薬を届けるだけでなく、患者への理解を深めることで何かが変わることを期待し、地道な努力を惜しみません。そうした相互作用がさらに新しい薬の開発につながったり、副作用対策が実現するなど、新しい動きが出てくるのではと期待しているそうです。
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